コアとガワ
文字
解説
「ご挨拶(2025.3現在)」でも触れたように、ネット環境の進展は、特定の権威を介さずに、個人の意見や作品を直接社会へ届けることを可能にした。 しかしその一方で、社会の至る所には依然として権力や権威の「勾配」が厳然と存在し、私たちは否応なく内面と外面を使い分けながら生きている。
近年、この人間の二面性は「コア」と「ガワ」と呼ばれるようになった。かつては裏方を指した「中の人」という言葉も、今では誰もが内と外を混在させて社会を構成している実態を示している。 私は1998年作の「社会性と自己」において、人は常に「造られた自分」を纏って生きている存在であることを提示したが、この構造は今日いっそう可視化されている。
「フラットな組織」という理想が語られて久しいが、現実の社会は今なお強い「勾配」に支配されている。自己と埋没、エゴイズムと利他主義といった相克する概念が、容易に想起されるように、 多くの人が「勾配」を感じ・被り・及ぼして生きていく現状がある。
その中で無力感と諦念を抱え、ガワがコアを侵食し、社会に適合しすぎるあまり「自失」の状態にある者も少なくない。
本作では、人偏(イ)に核の旁(亥)、そして「ト」を融合させることで、「核(コア)」と「外(ガワ)」の不可分な関係を字形そのものに刻み込んだ。亥の下部と「ト」によって「外」の字を視認させ、 コアとガワが互いに浸食しあいながら人を形作っている構造を表現している。
なお、次の通り、一画一画を異なる書体・線質で構成することにより、人の核も外面も決して一様ではないことを示した。
人偏:一画目に篆書、二画目に楷書を配
 し、人間の二面性を
鍋蓋:点は内部から外への発散、横線は
 隷書的で緩やかでありながら芯の強さ
 を
「亥」の下部:
  最初の画は蔵鋒かつ太細を強調し、
 丸みと鋭さの同居を
  次は意図的な渇筆で、自己すら把握
 できないコアの不確かさを
  次は意思の強さの中に残るまだらな
 揺らぎを
  続く二画は行書で柔和な「人」を
「ト」部分:核を守るべく硬質な縦線
 と、さまざまな含みを持つ点
全体として、外周は比較的強固な線で固めつつ、内側には未分化な自己の領域と柔らかさを孕ませた。もともと「亥」が人が自立しているように見える造形であり、 本作はガワを構築しながらもコアを失わずに生きようとする人間の意思の投影である。
組織、国家、社会──あらゆる局面で揺れ動き続ける「コアとガワ」。
その揺らぎの中にこそ、現代を生きる人間の真実があるのではないか。

   
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